シンデレラストーリーになるまで

信じていれば夢は叶う。

母②

 突然ですが、私の初経は小学4年生の夏の終わり頃に来ました。始めは受け入れられず、怪我をしたのだと本気で思っていましたが、母は生理用品などを私に貸し、生理について教えてくれました。前にも書きましたが、あの頃の母は本当に母親らしく、大好きでした。

 

 そんな母との別れは突然やって来ました。11月の初めの頃です。私が習い事から帰って来た、日が落ちる頃のことでした。

 いつも通り「ただいま〜。」と言って玄関に入ると、居間から怒鳴り声が聞こえて来ました。「最悪だ…また喧嘩しているのか…。」と思いながらすぐに自分の部屋に向かいました。帰宅後早々こんな思いさせられたら、帰りたくもなくなりますよね。

 小学校4年生にもなったので、こういうときは静かに自分の部屋で身を潜めている方が安全だと、もう分かっていました。時々気になって、自分の部屋の床に耳を当てて何で喧嘩をしているのか聞き耳を立てていました。その時は、本当に何についての喧嘩だったか分からなかったのですが、いつも通りの喧嘩だと変に日常だと思い切っている自分がいました。まあそれまでもそうだったわけですから、仕方のないことなんですけど。

 しかし、この後いつもとは違ったことが起きました。

「出ていけ!!!」

 父親の怒声が聞こえてきます。この言葉もよく聞いてきました。でもなんだか今回は違う空気がして、自分の心臓の音がどんどん大きく聞こえてきました。なんだろう、この不安感は。私は行く末を不安に思いながらも、部屋から一歩も出られませんでした。

 その後も怒声は続き、その後少し静かになりました。そして、誰かが子供部屋の方へ歩いてくる音が聞こえました。階段を上がると、私の部屋の前に兄の部屋があるのですが、母が兄に何やら話しているようでした。しばらくすると兄の部屋から大きな泣き声が聞こえて来ました。私は不思議と空気を察しました。そして母が私の部屋のドアをノックしました。

「あちゃ…ごめんね…お母さん出ていくわ…。」

「なんで。」

「お父さんもう何言ってもダメみたい…お母さんが出ていかないと落ち着かないわ。」

 

 隣の部屋からは兄の泣き叫ぶ声。なのに、私は涙が出てきませんでした。そんな私を見た母が、最後に私に言った言葉を私は忘れません。

 母は、私を抱きしめ、

「お兄ちゃんのこと、よろしくね。」

 そう言って階段を降りて行きました。私は、何も考えられずにいました。

 そして、出ていく準備を済ませた母が最後の別れを言いに来たので、最後まで見送ろうと思い、一緒に玄関を出ました。「このまま一緒に連れて行ってくれたらいいのに…。」ふわふわとそんなことを思いました。しかし、その後ろを追うようにして、父が来ていました。父は気持ちの悪いくらい静かで落ち着いていました。いつもなら父のことが気になったかもしれませんが、この時ばかりは母の乗った車が出ていくことを目で追うことしかできませんでした。

 母の車が出て行った後、私と父は無言で家の中に戻りました。

 小学校4年生。もう何事もなくやり過ごすような対処法も身につけてはいたけれど、今思えば母親が出て行ってこんなにも冷静でいられた自分が不思議で仕方ないです。でも、父親を責める、泣いて喚く、そんなこと想像したことすらなかったのでできませんでした。ただ静かに自分の部屋に戻ることしかできない私でした。

 

 この日から、母のいない生活が始まりました。冒頭にも書きましたが、ちょうど体にも成長が現れてきたときのことです。家には祖母がいましたが、時代の違いもあり理解されないことも多かったです。とても生きづらかった…。